【獣医執筆】野良猫を保護してから家猫になるまでに必要な知識まとめ

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管理人
この記事は獣医さんが執筆しました。

野良猫を保護した時に必要なもの、必要な行動。
野良猫が家猫になるまでの過程について、こちらの記事で紹介します。

野良猫を保護した時に真っ先に行ってほしい事

野良猫を保護したのが初めての場合には、まず何を行えばよいのか迷ってしまうこともあるでしょう。
こちらでは、保護した当日中に真っ先に行うべきことを紹介します。

なおこの記事では、離乳前(4週齢程度、体重400g程度までが目安)の猫を「幼猫」として説明しています。

【最優先】健康状態を観察し、静かな環境で隠れ場所を与える

最優先で行うべきことは、健康状態を観察することです。
動物病院を受診するのが理想的ですが、それが難しい場合には

  • 怪我をしていないか
  • 体が冷えていないか
  • 元気はあるのか

上記の3点を観察しましょう。

特に幼猫の体が冷えてぐったりしている場合には、低体温症や低血糖状態であることが考えられ非常に危険です。
以下の応急処置を行ってください。

  • 毛布や湯たんぽで保温する
  • コーヒーなどに入れるガムシロップや砂糖水を数滴ほど口に含ませる
  • 可能な限り早く動物病院に連れて行く

安心できる寝床を用意する

段ボールに入っている子猫
健康状態に大きな異常がなさそうであれば、猫がリラックスできるような場所を用意してあげます。
人の出入りが少ない部屋に、毛布を敷いた段ボールを用意するだけでも構いません。

ポイントは

  • 体の保温ができること
  • 静かな環境であること
  • 隠れられる場所があること

になります。

幼猫を保護した際には、保温ができることが最重要です。
周辺の温度が28度を下回らないようにしてあげましょう。
部屋の隅の低い位置に猫がいる場合などは充分に温まらないこともあります。
毛布、場合によっては湯たんぽの使用も検討しましょう。

食事の用意

食事をする子猫
幼猫の場合には、低血糖を防ぐために可能な限り早く食事(ミルク)の用意をしてあげてください。
コンビニやスーパー、薬局などで猫用ミルクを調達しましょう。
この際、人間用の牛乳は絶対に与えないでください。下痢による脱水症状を引き起こす可能性があります。

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深夜などでどうしてもミルクを用意できない場合には、応急処置としてガムシロップや砂糖水を口に含ませることで低血糖の予防ができます。
健康な成猫の場合、食事の用意は命に関わるほど緊急ではありません。
ただ、保護した猫の警戒心を解くという点では食事が重要な意味を持ちます。

初対面の人でもご飯を一緒に食べたらなんだか親近感が湧いたという経験はないでしょうか。
食べるという行為から得た安心感が、それを共にした人に対する安心感として認識されるためです。
人と一緒で、猫も食べるという行為からは安心感を得ます。
やはり早めに食事を用意してあげるに越したことはないでしょう。

人の食べ物を与えるのは極力避け、猫用のフードを用意してあげてください。

排泄について

保護したのが眼も開いていないほどの幼猫であった場合には、自力で排泄ができません。
濡れたおしぼりなどでお尻のあたりを優しく撫でて、排泄を誘導しましょう。
お母さん猫が舐めてあげるイメージです。
難しい場合には、獣医師に指導してもらいましょう。

家庭に新生児や、先住の猫・犬がいる場合は隔離する

外の世界で生活していた猫を保護する際には自分の家族に対する配慮も必須になります。
まずは猫から人にうつる人獣共通感染症のリスクを考えるべきです。
新生児がいる場合には、必ず猫から隔離をしましょう。
猫からうつる人獣共通感染症の多くは猫との直接的な接触か、あるいは糞便を介して感染します。

新生児と猫の部屋をわけるのはもちろん、猫に触れた後にはよく手を洗ってください。
新生児だけではなく、病気などで免疫力が低下していそうな方には同様の対応が必要です。
また先住の猫や犬がいる場合にも部屋を隔離しましょう。
感染症のリスクだけでなく、ノミダニがうつるリスクもあります。

また保護された猫側からしても、見知らぬ猫や、天敵である犬と同じ部屋ではいつまでも警戒心を解くことができません。
先住の猫や犬、保護された側の猫の双方のためにも隔離を行うべきです。

なるべく早めに動物病院を受診する

動物病院を受診した猫
体調が良さそうであれば後日でも構いませんので、動物病院の診察を受けさせてあげましょう。
動物病院を受診する事で、以下の確認が行えます。

【寄生虫の有無】
食欲元気などには問題がなくても、猫回虫をはじめとした消化管内寄生虫や、ノミダニといった外部寄生虫がいる可能性は十分にあります。
動物病院で糞便検査や駆虫薬の処方をしてもらうべきです。

また外猫の間ではウイルス感染症が蔓延しています。
特に猫エイズウイルスや猫白血病ウイルスは、症状をださないまま長いあいだ体の中に潜伏し、ある日突然発症するということもあります。
少なくともこの2種類のウイルス感染症については、一度検査をしておいたほうがよいでしょう。

※ウイルス検査は保護直後ではなく、家の中にいれて8週間以上経過してからの実施がオススメ。
ウイルスは感染直後から8週間は検査で検出できません。
ウイルス検査のタイミングについては、獣医師とよく相談してください。

【獣医からの指導】
また幼猫の場合には、前述の排泄の手助けのように成猫とは全く異なる特別なケアが必要です。
動物病院を受診して、それらの細かな相談をすることが必要となるでしょう。

【本当に野良猫かどうかの確認】
さらに、保護した猫が本当に野良猫かどうか確認することも必要です。
動物病院ではマイクロチップが埋め込まれていないかどうかを確認することができます。
他に警察や保健所、動物愛護センターなどに迷い猫の届出がなされていないかも併せて確認してあげましょう。

動物病院での費用

動物病院を受診すると、初診料1,000円から3,000円程度必要になります。
糞便検査2,000円は前後を見積もっておきましょう。
また駆虫薬は種類にもよりますが、1,000円から2,000円程度のものが多いでしょう。
猫エイズおよび白血病ウイルスの検査は6,000円前後を考えておきましょう。

野良猫の避妊・去勢の必要性について

保護した猫が本当に野良猫であると確認でき、自分で飼っていくと決意した場合に考えなければいけないのは、避妊・去勢手術を実施するかどうかです。
避妊・去勢手術には人によって様々な考え方があるかとは思いますが、私を含め多くの獣医師は実施するべきと考えています。

避妊・去勢手術のメリット

避妊・去勢手術を行うメリットとして、発情に伴う行動によって飼い主と猫双方が受けてしまうストレスを軽減することができます。
具体的には

  • マーキングやメスを探しての脱走といった行動の抑制
  • 交配できないことによる猫の精神的なストレスや
  • メスの奪い合いでケンカをするリスクの軽減

が期待できます。

さらに避妊手術に関していえば、実施することでいくつかの病気の予防をすることができます。
その中で代表的な病気に乳腺腫瘍があります。
6か月齢で避妊手術を行った場合には91.0%の予防効果、1歳齢までに行った場合には86.0%の予防効果を得られます。

ただし、2歳齢を過ぎてから避妊手術を行っても乳腺腫瘍の予防効果は得られませんので注意が必要です。
他に予防できる病気としては、子宮蓄膿症に代表される子宮疾患や卵巣疾患があげられます。
これらは乳腺腫瘍とは異なり、2歳齢を過ぎたからといって予防効果が低下するということはありません。

手術済みの猫の確認法

幼猫を保護した場合には、避妊去勢手術が行われているのかどうか心配する必要はありません(手術は6か月齢以降を目安に行われます)。
しかし、成猫に近い猫を保護した場合には、手術済みかそうでないか見分けなければいけません。
雄猫の場合には触診で比較的容易に見分けることが可能です。

精巣があれば未去勢、なければ去勢済みと判断できます。
なお、中には精巣が正常な位置にない「隠睾」という状態があります。
この場合には触診で判別がつかないこともありますが、稀なのであまり気にしないで良いでしょう。

一方、雌猫の場合には避妊済みかどうか確実に見分けるのは容易ではありません。
X線検査や超音波検査でわからないの?と思うかもしれませんが、これらの検査では正常な子宮卵巣は発見できないことがあります。
その前提の上ですが、方法はいくつかあります。

■耳がカットされている
保護の一環として地域猫の避妊手術を行った場合には、手術済みの印として耳先に少し切れ込みを入れてあることがあります。

■発情の有無
2歳齢を過ぎた猫では、焦らずに発情の有無で見分けるのがよいかもしれません。
避妊手術の大きなメリットの1つである乳腺腫瘍の予防効果が得られる年齢を過ぎており、手術の実施を急がなければならない理由が少ないためです。

野良猫の警戒心を解き、家に慣れてもらう方法について

リラックスしている猫の画像
人慣れしていない猫の警戒心はどのように解いていくのがよいのでしょうか。
ポイントは「あせらず、ゆっくりと」です。
早く仲良くなろうと声をたくさんかけたり触れたりしてしまいがちですが、人慣れしていない猫には逆効果です。
こちらから無理に距離を縮めようとせず、まずは安全な場所であることを学んでもらうのが重要です。

静かな環境でつかず離れずの距離感を保ちつつ、猫から距離を縮めてくれるのを待つようにしましょう。
食事などの世話をする際にも注意点がいくつかあります。
まずは目線を合わせないことです。
猫の間では、目線を長時間合わせることは敵意を示すシグナルです。

目線を合わせすぎると、猫は警戒してしまいますので注意しましょう。
次に、急に素早い動きはしないことです。
猫は突発的で早い動きをする相手を苦手とします。
小さな子供を苦手とする猫が多いのはこのためです。

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動き始めも含めて、普段よりもゆっくりとした動作を心がけるようにしましょう。
ある程度慣れてきたら、人の匂いがついたタオルなどに慣れさせていくことも効果があるかもしれません。
人の匂いがする中で食事やおやつを与えることを繰り返すことによって、少しずつ警戒心が解けていくことが期待できます。
ただし人の匂いがすると食事に手をつけない場合には、まだこの方法を試す段階ではありません。

もう少しだけ辛抱しましょう。
なお、この方法は先住の猫や犬に対して慣れてもらう際にも応用できます。
とにもかくにも、「あせらず、ゆっくりと」慣れていってもらう意識が大切です。
猫を保護するということには色々と大変な面もあります。
この記事が少しでも役に立ち、人も猫もゆっくりと新たな環境に馴染んでいく手助けとなることを願っています。

 
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